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魔法の呪文「ぬちぐすい」を忘れないで。消えゆく純・沖縄語(ウチナーグチ)の世界

沖縄ライフ・コラム
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​「はいさい」や「めんそーれ」なら、観光ガイドブックの1ページ目にも載っている。だが、今の沖縄で、本当の意味での「ウチナーグチ(沖縄の言葉)」を話せる人がどれだけ残っているだろうか。

​近年の沖縄では、標準語に近い「ウチナーヤマトグチ」が主流だ。イントネーションこそ独特だが、使っている単語はほぼ日本語(共通語)である。一方で、かつてオジーやオバーが日常的に使っていた、古来の美しい響きを持つ言葉たちは、時代の波に押されて静かに消えようとしている。

​今の若者、それこそ小学生くらいの子どもたちに「あぬ、しんかぬちゃー(あの、仲間たち)」と言っても、キョトンとされるのがオチだ。言葉が形を変えるのは世の常だが、魂が宿るような深い言葉が失われるのは、どこか胸が締め付けられるような寂しさがある。

​今回は、教科書には載っていない、心に響く「古き良きウチナーグチ」の世界を覗いてみよう。

​命を救う薬は、胃袋だけではなく心にある

​沖縄の言葉の中で、最も尊く、そして今こそ語り継ぎたい言葉がある。それが「ぬちぐすい(命薬)」だ。

​これは単なる「薬」を指す言葉ではない。美味しいものを食べたとき、美しい景色を見たとき、あるいは孫の笑顔を見たとき。心や体が芯から癒やされ、「あぁ、長生きできそうだ」と感じる瞬間のすべてを、沖縄の人は「ぬちぐすい」と呼んだ。

【使用例】

オバーが作ったゴーヤーチャンプルーを食べた時:

「まーさん(美味しい)なー。これぞ、ぬちぐすいやさ」

​現代風に言えば「デトックス」や「ヒーリング」に近いかもしれないが、それよりもずっと温かみがある。この言葉の背景には、万物すべてが自分の命を支える薬になるという、沖縄らしい楽天的な哲学が詰まっている。

​怒っているようで愛がある?「あびやー」と「まやー」

​ウチナーグチを語る上で欠かせないのが、その独特のユーモアだ。

​私が幼い頃、近所のオジーはいつも私のことを「ひーらー(お漏らしっ子)」と呼んでからかっていた。失礼な話だが、そこには不思議とトゲがない。沖縄の悪口(のような愛称)には、どこか抜けたような明るさがある。

​例えば、よく喋る人のことを「くちあびやー(口を動かして喋る人)」、せかせか動く人を「いちゃいちゃー(急ぎん坊)」と呼ぶ。

​ある時、私の友人が新しい靴を買って自慢げに歩いていたら、オバーにこう言われた。

「わったー孫は、ちびまぎー(お尻が大きい)だから、その靴もすぐ履き潰すはずよ」

友人は一瞬固まったが、オバーの目は笑っていた。沖縄において、体の特徴をズバッと言うのは、案外「親しみ」の裏返しだったりする。ただし、今の時代に職場で使うと一発でアウトなので、そこは注意が必要だ。

​現代人が見失った「いちゃりばちょーでー」の真髄

​よく知られた言葉に「いちゃりばちょーでー」がある。「一度会えば皆兄弟」という意味だが、昔の沖縄ではこれが単なるスローガンではなく、生存戦略でもあった。

​台風が多く、資源が限られた島国で生き抜くには、見知らぬ誰かを助け、また助けられる関係が不可欠だった。この精神を「ゆいまーる(助け合いの順番)」と言う。

​今のSNS時代、私たちは画面の向こうの何千人と繋がっているが、隣に住む人の名前も知らないことが多い。

「あぬ、ゆいまーるの心、忘れてないねー?」

オジーたちが酒を酌み交わしながら漏らすこの言葉は、現代社会への鋭い警鐘のようにも聞こえる。

​これだけは覚えておきたい「オジー・オバー語録」

​今のうちの子どもたちに言っても通じないかもしれないが、ぜひ日常に取り戻したい味わい深い言葉たちをいくつか紹介する。

​かめーかめー攻撃(カメーカメー)

​これは単語というより現象に近い。「かめー」とは「食べなさい」という意味。

オバーの家に行くと、座る間もなくサーターアンダギー、ポークたまご、お菓子、果物が次々と出てくる。

「お腹いっぱいだよ」と言っても、「かめー、かめー(食べろ、食べろ)」と、まるで強制給餌のようなおもてなしを受ける。これこそが、沖縄の究極の愛の形だ。

​てーげー

​「適当」「いい塩梅(あんばい)」という意味。

ネガティブに捉えられがちだが、本来は「完璧主義で自分を追い詰めない」という、究極のメンタルヘルス用語だ。

「仕事が溜まってる? まあ、てーげーでいいさ。死ぬわけじゃないし」

この一言で救われる命が、今の日本にはどれだけあるだろうか。

​なんくるないさ

​誤解されやすい言葉の筆頭。単なる「なんとかなるさ」ではない。

正しくは「真(ま)くとぅ、そーけー、なんくるないさ」。

(正しい道、誠の道を歩んでいれば、あとはなんとかなるものだ)

努力もせずに楽観視するのではなく、やるべきことをやった後の「天命を待つ」という強い意志の言葉なのだ。

​言葉は消えても、心は消さない

​時代が変われば、言葉が変わるのは当然だ。スマートフォンの操作を教えるときに「この画面を、うすとーり(押し通して)」なんて言う必要はない。

​けれど、誰かを思いやる「ちむぐくる(肝心・真心の心)」や、悲しみに寄り添う「ちむがなさ(愛おしい)」といった言葉を忘れてしまうのは、沖縄のアイデンティティそのものを手放すことに等しい気がする。

​もし、あなたの周りにウチナーグチを話すオジーやオバーがまだ元気でいるなら、ぜひ面倒くさがらずに耳を傾けてみてほしい。

彼らが話しているのは単なる古い言葉ではなく、激動の時代を生き抜いてきた「命の知恵」そのものなのだから。

​次に雨が降ったとき、慌てて「最悪!」と言う代わりに、一言つぶやいてみてはどうだろう。

「あきさみよー、恵みの雨やさ」

​それだけで、いつもの景色が少しだけ、色鮮やかな沖縄の原風景に近づくかもしれない。

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