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タイムスリップする島。沖縄の「旧暦」で回る、熱くて不思議な年中行事

沖縄ライフ・コラム
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​沖縄の空港に降り立った瞬間、独特の空気感に包まれる。それは湿度や温度だけではない。そこには、現代日本が忘れかけている「目に見えない存在」と共に生きる、ゆったりとした、それでいて情熱的な時間が流れている。

​沖縄の行事を理解するキーワードは、「旧暦」「先祖崇拝」「トートーメー(仏壇)」だ。

​ここでは、カレンダーが二つあるかのような沖縄の暮らし、そして親戚が集まりすぎて「もはや誰が誰だかわからない」という混沌とした、しかし温かい行事の数々を紹介する。

​終わらない正月と、神様が里帰りする「旧暦」の魔法

​沖縄の行事のほとんどは、新暦(カレンダー通り)ではなく、月の満ち欠けに基づいた旧暦で行われる。そのため、毎年行事の日程が変わる。

​沖縄の地元型カレンダーでは「今日は旧暦の○月○日」という情報が当たり前のように流れ、人々は新暦の正月で祝い、旧暦の正月(旧正月)で再び祝う。さらに、1月16日(旧暦)には「後生(グソー:あの世)の正月」まである。

​沖縄の人々は、一年に何度も「おめでとう」を言うチャンスがある。これは、単なる怠け者や祝い好きなのではない。現世を生きる自分たち、神様、そして先祖、それぞれの時間軸をすべて大切にしようとする、究極のホスピタリティなのだ。

​沖縄の主要な年中行事一覧:意味と目的

沖縄の行事は、その多くが「家族の健康」と「先祖への報告」に集約される。代表的なものを表にまとめた。

行事名(読み)時期(旧暦)意味・目的具体的にすること
旧正月(キュウショウグツ)1月1日1年の始まりを祝う仏壇に若水を供え、家族でご馳走を食べる。
十六日祭(ジュウルクニチ)1月16日後生(あの世)の正月お墓に親戚が集まり、重箱料理(ウサンミ)を供える。
浜下り(ハマウリ)3月3日女性の穢れを落とす海辺に降り、足を海水に浸して身を清める。潮干狩りを楽しむ。
清明祭(シーミー)3月〜4月頃先祖供養・親族の親睦お墓の前でピクニックのように食事をする。沖縄最大の親戚行事。
ハーリー(ハーレー)5月4日航海安全・豊漁祈願伝統的な舟(サバニ)で競漕を行う。
旧盆(キュウボン)7月13〜15日先祖を現世へ迎える3日間かけて先祖をもてなし、最終日にエイサーで送り出す。
カジマヤー9月7日97歳の長寿祝い風車を持たせ、オープンカーなどでパレードを行う。
ムーチー(鬼餅)12月8日健康祈願・厄払い月桃の葉で包んだ餅を蒸して食べ、軒先に吊るす。

シーミー(清明祭)はお墓の前でピクニック?

​沖縄を象徴する行事といえば、春に行われるシーミーだ。本土の方から見れば、お墓の前でゴザを広げ、酒を飲み、大声で笑いながら食事をする光景は異様に映るかもしれない。

​しかし、これこそが沖縄の「先祖崇拝」の真髄だ。お墓は「怖い場所」ではなく、「先祖が住んでいる家」であり、そこへ親戚一同で遊びに行く感覚なのだ。

​ここで必ず登場するのが「重箱料理(ウサンミ)」だ。揚げ豆腐、魚の天ぷら、昆布の煮付け、三枚肉などがきっちり詰められている。

以前、私の親戚のシーミーで、小学生の甥っ子が「おじいちゃん、これ美味しいから食べて!」と、お墓の入り口(墓穴)にフライドポテトを差し込もうとしたことがあった。

周囲の大人たちは一瞬凍りついたが、長老である曾祖母が「おじいちゃんもマックは好きだったはずねえ」と笑い、そのままお供えされた。

​先祖は厳格な存在ではなく、常に食卓の端っこに座っている「身近な家族」なのだ。

​怒涛の三日間、魂が震える「旧盆」とエイサー

​夏になれば、沖縄は「旧盆」一色になる。

  • 1日目(ウンケー): 先祖をお迎えする日。
  • 2日目(ナカビ): 先祖とゆっくり過ごす日。親戚回り。
  • 3日目(ウークイ): 先祖をあの世へ送り出す日。

​この3日間の親戚の結束力は凄まじい。仏壇のある家(本家)には、何十人もの親族が入れ代わり立ち代わり訪れる。

困るのは、名前と顔が一致しないことだ。「あんた、誰の孫ね?」「あー、あそこの三男の……」という会話が100回くらい繰り返される。

時には、全然知らないおじさんが仏壇の前で堂々とビールを飲んでいることもあるが、誰も気にしない。「親戚の知り合いは、だいたい親戚」という大らかなルールが適用される。

​そして、ウークイ(送り出し)の夜、各地域ではエイサーが踊られる。太鼓の音は、先祖が迷わず帰れるようにという合図であり、生者の感謝の鼓動でもある。

​「ウチカビ」という名のあの世専用通貨

​沖縄の行事に欠かせないのが、ウチカビ(打ち紙)だ。黄色い紙に銭の型が押されたもので、これを火で炙って燃やすことで「あの世の送金」が完了する。

​「おじいちゃん、向こうでお金に困らないようにね」と言いながら、何枚ものウチカビをボウルの中で燃やす。これ、実はレートが決まっていると言われており、1枚が「数千万円〜数億円」の価値があるという説もある。

​ある時、酔っ払った親戚のおじさんが「これだけ燃やせば、あの世でビルが建つはずよ!」と、束ごとボウルに投入した。すると、火柱が上がりすぎて火災報知器が鳴りそうになり、「あの世に送る前に、この世の家がなくなる!」と大騒ぎになった。

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信心深さも、ほどほどが一番。先祖もきっと、苦笑いしていたことだろう。

​結び:人は一人では生きていけない

​沖縄の年中行事は、正直言って忙しい。準備も大変だし、お金もかかる。それでもこの文化が色濃く残っているのは、これらが「確認作業」だからだ。

​「自分はどこから来たのか」「誰に支えられているのか」

​旧暦に合わせて集まることで、疎遠になっていた親戚と顔を合わせ、近況を報告し、共に食べる。先祖を敬うことは、自分たちのルーツを肯定することであり、今隣にいる人を大切にすることに直結している。

​沖縄の行事は、単なる古い習慣ではない。現代社会で希薄になりがちな「人と人の結びつき」を、旧暦という魔法のスパイスで繋ぎ止めている、温かなコミュニティの形なのだ。

​もし沖縄を旅する時、どこからか三線の音や太鼓の響きが聞こえてきたら、それは島の誰かが先祖と宴を楽しんでいる証拠だ。その深い絆の端っこを、少しだけ覗かせてもらう気持ちで、島の時間に身を任せてみてほしい。

沖縄県民はほとんどの人が知っている、うちかび。あの世のお金。諸説あるが、1枚=1万円~2000万円、あるいは1束(5枚程度)=7500万円~数億円とされる。あの世もかなりインフレなのだろう。

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